■第2章 ロングウォークのための科学

・人間と自動車の共通点

東松山からの帰りの電車の中で自分のどこがいけなかったのか?何をどうすれば余裕を持ってナイメーヘンを完歩できるのか?という事を真剣に考えてみました。まず自分の体を自動車に当てはめてみると理解もしやすいし、なにより面白いと考えたのです。

車が走行するためにはエンジンで発生した力でタイヤを回転させます。路面からの振動はサスペンションが吸収します。車重が重ければ燃費も悪くなり各部の負担も増えて部品が痛みやすくなります。

これを人間の体に置き換えて考えるとエンジン(筋肉)で発生した力でタイヤ(足の裏)を蹴って前に進みます。歩く度にサスペンション(骨や関節)がショックを吸収します。歩けばエネルギーが消費されてお腹がすきますし、体重が重ければ体のすべてのパーツにダメージが蓄積します。筋肉だけが強くても関節や足の裏がすぐにダメになってしまいます。要は全体のバランスが極めて重要なのです。

・減量はすべてに効いてくる

特に重要な要素は体重だとすぐに気づきました。今の90キロ台の体重では50kmを完歩するにはちょっと重過ぎます。なんとか減量しなければならないと痛感しました。また大好きな酒は筋肉へのダメージもあり、酒による脱水症状はウォーキングの大敵です。また余分な脂肪が増加する原因ともなりウォーキングへのネガティブな影響ばかりだと気がつきました。そこでしばらくの間禁酒をする事にしたのです。体重は見る見る減っていき血液検査の指数もどんどん改善して献血で断られる事がなくなりました。この禁酒は大きな効果を発揮する事になり結局は禁酒は8ヶ月間続けました。

・サスペンションの強化

体重が重い人が長距離を歩くと関節が熱を持って痛くなってはれてきます。特にひざや足首などの関節に症状が現れやすいです。東松山で経験したこの状態は大変つらく足の裏のマメよりも歩くのがつらい要因になっています。また一度関節を痛めるとなかなか簡単には完治しないので長距離ウォークを続けるには大きな問題になります。この対策としては関節のショック吸収効果を高めるためのサプリを摂取することにしました。

具体的にはグルコサミン、コンドロイチン硫酸、コラーゲンをバランスよく摂取する事です。グルコサミンは新しい軟骨の生成を促進し、コンドロイチン硫酸とコラーゲンはペアで関節の中にあるゼリー状のクッション材をはじめ体中の弾力のある部分の原料になります。

トレーニングの過程で判明したのは50km以上の長距離を歩くと明らかに関節内のゼリー状のクッション部分が消耗してきて関節がギシギシしてくるという事です。普段から上記の栄養素を摂取することで、この状態からの回復が早まるものと思われます。連日の長距離ウォークにはまさに必須な物だと言えるでしょう。

実際に摂取するには市販のサプリの中で安価なものを選んで規定量を飲めばそれで結構ですが私は値段が一番安いという理由からFANCELの楽節サポートというサプリを飲んで好結果を得ています。このサプリは私の友人が足を痛めて引きずって歩いていた症状を見事に緩和してくれたのを身近で見ていたので安心感がありました。

ただしこのサプリには即効性はありません。少なくても3ヶ月ほど摂取しなければ効果を実感することは難しいと思います。またどのメーカーのサプリでも構いませんので値段を含めて入手しやすい物で良いと思います。

・タイヤの強化

私は元々マメが出来やすい体質でマメ対策に関しては以前から色々と試していました。一度マメができてしまうとそれをかばう歩き方になってしまい結果的に関節や筋肉までもダメージを受けてしまいます。まるでパンクしたタイヤで走り続けると車のあちこちが連鎖反応的にダメージを受けていく事に似ています。

やはり四日間を楽々と完歩するには50km歩いても絶対にマメを作らない方法を会得する事が必須になります。今までのマメ対策を見直してより確実な物にするために研究を開始しました。

今まではディクトンを利用して足の裏の皮膚を強化してマメができる距離を伸ばすという方法をとっていましたが、東松山での結果から言えば皮膚に対するダメージが連日蓄積されるために初日は大丈夫でも二日目や三日目にマメが出来てしまうという弱点がわかりました。この方法ではナイメーヘンの四日間は無理なことははっきりしています。

ディクトンを使う前にはテーピングをしていましたが、当時のテーピング技術が下手だったせいかテーピングの隙間にマメが出来てしまったり途中ではがれてしまったりとトラブルが多かったのでディクトンに切り替えたのですが、もう一度基本に戻ってテーピングでやってみようと思いました。

色々なテープや張り方を工夫した結果、一応は50km歩いてもマメが出来ないようになりました。テーピング技術の進歩もさることながらトレーニングを繰り返したことで足の裏の皮膚がそれなりに鍛えられたのかもしれませんが。

靴に関しては今まで通りの方法で入念にチューニングを施しました。特に長距離を歩くと足がパンパンにむくんでしまいます。左右方向だけではなく上下方向にもかなりの余裕を持たせなければならない事がわかったので毎日少しずつシューストレッチャーで靴を変形させ続けてつま先部分のスペースを十分に確保しました。

・最後はエンジンの強化

筋肉を酷使すると筋肉痛になります。これはその筋肉で出せる以上のパワーを無理に引き出した為に筋肉繊維が切れる事が原因です。通常は数日で以前よりも太く筋繊維が再生する事により筋肉はより太くたくましくなっていくわけです。筋肉を鍛えるにはわざと大きな負荷を与えて筋繊維を切って筋肉痛にならなければいけない訳です。

しかし四日間連続で長距離を歩く際には考え方は全く逆になります。筋繊維は切ってはいけないのです。筋繊維が切れることにより筋肉のパワーが落ちます。サロンシップやエアーサロンパスなどの鎮痛剤で楽になったとしても翌日には筋繊維は再生しません。結果的にパワーの落ちた筋肉を前日と同様に酷使するのでさらにどんどん筋繊維が切れていきます。一度切れると悪循環に入り込む危険があるのです。特にインドメタシンなどの強力な鎮痛剤は翌日歩かないのであれば大変に有効ですが、不用意に連日使い続けると多くの筋繊維が切れて突然筋肉が動かなくなってしまう危険もあります。

要は筋繊維を切らないで毎日歩くという方法を身につけなければならないという事なのです。思えば去年の東松山の初日に自分の歩ける最高スピードで歩いた事で筋肉痛になってしまい、そのダメージが最終日までずっと蓄積された事は大変辛かったです。筋肉のパワーは歩くスピードの2乗に比例して大きくなります。たとえば時速6キロで歩くには時速5キロの時の1.44倍、時速7キロなら2倍のパワーが必要になります。

また信号が点滅したので慌てて渡ろうとしたり前の人を追い抜くために一時的にでもスピードを上げた瞬間に筋繊維が切れてしまう場合もありますので要注意です。要は周りのプレッシャーに惑わされず最後まで自分のペースを守って決して無理をしないという事ですね。

筋肉が余裕のある状態で歩き続ける事を念頭に置いて歩くスピードをコントロールするというのが大切です。ちょうど本物のエンジンと同じように回転を上げ過ぎると壊れてしまうので程よい回転数でドライブする事に似ています。

・エンジンオイルや細かい調整

皆さんはちょっと長めに休憩した時などに筋肉が硬くなってしまって歩きにくくなってしまった事はありませんか?これは筋肉がエネルギーを出した後に残る乳酸の作用で乳酸を効率よく筋肉から運び去ってもらうためには運動終了後のクールダウンが大切です。つまり歩き終わったら入念にストレッチを行う事が大切です。また長距離を歩く場合には定期的なストレッチが疲労回復には有効で効率的なストレッチのやり方を習得しておく事が大切です。

水虫があるとマメが出来やすくなるので予め治療をしておく必要があります。また足の裏の硬い皮膚も適度に削っておかないと硬い部分と柔らかい部分の境目にマメが出来てしまいます。またおしりの谷間に水虫の菌(真菌)が住み着いていると長距離を歩いたときに猛烈に痒くなってしまうので、これも治療しておかないと辛い思いをします。

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