■第7章 フォーデーマーチ初日

午前4時のスタート地点

フォーデー期間中のモーニングコールは毎朝午前2時でした。でも日本時間ではもう午前9時なのでモーニングコールの前には自然に起床しちゃいます。やはり日本時間に合わせて生活した方が楽なようです。私の泊まったホテルは50kmウォーカーの為に2時45分から朝食を提供してくれています。食堂に行ってみると日本ウォーキング協会のツアーの皆さんもいらっしゃいました。皆さんは日本から白米、のり、梅干、漬物などを持ち込んで朝から日本と変わらない朝食を取られていました。

普段はマメ対策はテーピングのみですが今日は本番でしかも初日という事もあり二重の対策としてディクトンを念入りに擦り込んでからきっちりテーピングしました。これで万全なはずです。持ち物を確認してホテルを出発すると外はまだ真っ暗でした。気温は体感で14度くらいで半袖半スパッツでは少々寒かったです。バス停で待っていると少し年配のウォーカーと二人の若者がやってきました。まずはお互いに挨拶をして自己紹介をしました。年配のウォーカーは今年で10回参加のベテランで若い二人は初参加との事。私も日本から初参加だと話しました。この4人が最終日までずっとこのバス停でバスを待つ事になる訳ですが・・・

スタート会場へは路線バスで移動します。期間中は路線バスも特別ダイヤで3時20分にホテル前を出発して15分ほどでスタート会場に到着です。バスの中では停留所に止まる度にどんどんウォーカーが乗り込んできます。みんな気軽に挨拶をしていました。オランダ語で朝の挨拶はモルヘンと言います。発音のポイントは「ヘ」の音で日本語の「ヘ」とは違いのどの奥を擦るような「ヘ」です。表現は汚いですがちょうど痰を切る時の音にそっくりです。まずバスの中で「モルヘン」を十分に練習したほうが良いと思います。これから何千回も使うことになりますので・・・・

いよいよスタートです。すごい人数が集まってひしめき合っています。まさにスタート前の盛り上がりで一部のウォーカーは気勢を上げています。スタート前に少し雨がパラつきましたがすぐに止みました。いよいよ午前4時ジャスト。長い間夢見てきたナイメーヘンのスタートです。スタートゲートが混雑してなかなか前に進みません。ウォーカーそれぞれのバーコードカードをハンディーターミナルでスキャンしていきます。やっと15分ほどで無事スタートできました。落ち着いて自分のペースを守ると心に誓ってゆっくりと歩き始めました。

初日だけはスタート後に北に向かいます。大きな橋を渡って北のLentという町に向かいます。それにしても他のウォーカーたちのペースはあまりにも速いので驚きです。恐らく時速7キロ位は出ていると思います。私としてはこんなハイペースに巻き込まれては4日間もたないと思い我慢しながら道の端をウォーミングアップを兼ねて時速5キロ位で進みました。あまりに私のスピードが遅いのでみんな心配して顔を覗き込んだり声をかけてくれたりしてくれますがぐっと我慢してペースを守ります。

橋を渡って最初の町に入りました。午前4時ですのみんな寝静まっているのだろうと想像していましたが現実は全く違いました。みんな沿道に椅子を出してきて座りながら拍手をしています。大きな声で「モルヘン」と挨拶してくれます。ウォーカーもみんなモルヘンで答えます。庭先に大きなスピーカーを持ち込んで大音量でノリの良い音楽をガンガンかけてDJをしている家も珍しくありません。朝から酔っ払っている様にも見えます。本当に午前4時とは思えない光景に度肝を抜かれました。しかしこの光景が今後はずっと続くことになるのです。つまりこれから通過する町すべてが応援団であり休憩ポイントであり接待所でもあるのです。

そんな光景に驚きながら二時間ほど歩いた頃に突然足に痛みを感じました。経験的に言えば足の裏に底マメが出来かけている痛みなのです。おかしい・・・あれほどマメ対策をして日本でのトレーニングでも何の問題も無かったはずなのに本番のしかも初日の10キロも歩かないうちにマメが出来そうになるなんて・・・そう思いながら少し歩きましたがこのままでは完歩も無理だと決断して沿道の応援団の椅子に座らせてもらい靴下を脱いで足をチェックしてみると・・・

なんときれいにテーピングしたはずのテープがすべてはがれていました。はがれたテープが丸くなって皮膚を刺激してマメが出来かかっていたのです。理由は念のためにつけたディクトンでした。もちろんディクトン単体ではすばらしい防マメ効果を発揮します。またテーピングもそれ単体では50km歩いてもはがれる事は無く確実に足の裏の皮膚を保護してくれることはトレーニングの過程で確認済みです。問題なのはこの二つのマメ対策は共存できないという事です。

ディクトンは皮膚に染み込み皮膚の表面を強化します。この効果によりテープすら受け付けないスムーズな皮膚になってしまったのです。実を言えば今までこの組み合わせを試した事はありませんでした。それなのに本番だから念のために実績の無い普段はやらない組み合わせをやってしまった私が悪いのです。テープをすべてはがしてディクトンの効果だけでしばらく歩くことにしました。しかしディクトンも30キロを超えると再度塗りこまなければマメ防止効果が低下する事が経験的にわかっていました。

普段は塗り替え様にディクトンを持ち歩くのですがベストに入る容量は限られているので今日は持ってきませんでした。また予備のテープも普段は50km歩いてもはがれた事が無かったので置いてきてしまいました。初日から情けなくなってしまいました。しかし何とかするしかないのがウォーキングです。そこで作戦を立てました。最初の30キロまではディクトンの効果を信じてマメを作らないようにゆっくり歩く。30キロくらいでElstという大きい町があるのでそこでテープを調達してテーピングに切り替えるという作戦にしました。

とにかくElstまではゆっくりペースを落として歩きました。しかしさすがにディクトンの効果も薄くなってきて足に違和感を感じ初めていました。経験的に言えばもう少し歩くとマメができてしまうという危険な状態で気が気ではありませんでした。そこで今までのペースよりもさらに遅いペースで歩いたせいか周りにはあまりウォーカーがいなくなってきました。沿道の応援の皆さんももう片付けを始めてしまっています。要はもう50キロのアンカー状態になってしまっているわけです。しかし我慢をしながらやっとElstの町に到着しました。もう応援の盛り上がりもすっかり冷めてしまって応援の方々も少なくなってしまっていましたが、

 Leukoplastです。

とにかく薬局を探して飛び込んでテープを買いました。ここで偶然見つけたのがLeukoplastというドイツ製のメーカーのテープでした。しかし製造がフランスと書いてある不思議な国籍のテープです。(オランダで買ったフランス製のドイツのメーカーが販売するテープ?)しかしこのテープが素晴らしいテープでした。このテープはまるで布ガムテープのように天然ゴムが含まれていて表面がとても固いのに伸縮性がある程度あって局面にフィットしてしかも粘着性がとても強いというテープでした。色によって用途が違うようで私が買ったのは赤いバージョンでした。

後で判ったのですが赤十字がウォーカーのマメの治療をする際に使うテープでこちらのウォーカーには超有名なテープだったのです。恐らくはElstの薬局がウォーカーの為にわざわざ仕入れて置いてくれたのでしょう。Elstの町の思いやりに感謝したいと思います。沿道の椅子に腰掛けていつものようにテーピングをしました。もうディクトンの影響は残ってないようで、ぴったりとテープが張り付いて良い感じです。テーピングをしていると沿道の皆さんが心配して声をかけてくれました。「初日からそんな状態で4日間歩けるのかい?」なんて聞かれちゃいました。ただ「大丈夫だと思います」と答えるしかありませんでした。全くはずかしい次第です。

テーピング後に驚きました。今まで足の裏に感じていた違和感が全く無くなったのです。テープが優秀なのできちんと第2の皮膚として機能していることが実感できました。ある程度ペースを上げて歩いてももうマメが出来そうな不安感はありません。今までよりも少しだけペースを上げてゴールを目指します。順調に町を通過して堤防の道に出ました。遠くにはナイメーヘンの町並みが見えます。いよいよ戻ってきました。

最後に早朝に通ったLentの町を再び通過しましたが大勢の観客とウォーカーが一緒になってバーで飲んで盛り上がっています。あと30分も歩けばゴールですので恐らく知り合いと待ち合わせをしているのでしょう。それにしてもすごい賑わいです。観客が多すぎて道が細くなってしまいウォーカーが通りにくくなってしまっています。

朝方渡った橋を逆に渡ってナイメーヘンの中心部の戻ります。程なくゴールして自分の受け付けテントに行ってバーコードをスキャンして翌日のコントロールカードを受け取ってほっとしました。これで明日も歩ける権利を得た訳です。入念にストレッチをして市内の飛び込みのイタリアンレストランで食事をして店員と色々話をしました。すると火曜の夜はナイメーヘンの街中でウエルカムパーティーが開催されるそうです。花火も贅沢に上がるすごいイベントらしいという情報をもらいましたが日本時間で言えば寝ていなければならない時間帯でしたので確実な完歩の為に涙を飲んでホテルに戻りました。

ホテルに戻り風呂に入り、洗濯して、筋肉をほぐして、ビタミンを補給し、ディクトンで少しだけダメージを受けた足をケアして、メールを処理して、じっくりストレッチして床につきました。本日のしっかり歩数は71681歩でした。

初日の感想はとにかくはじめての経験ばかりであっという間に終わってしまった感じです。途中で足のテープがはがれるトラブルはありましたが終わってみれば、ゆっくり歩いたおかげで全く疲れていないという状態です。去年の日本スリーデーの50kmよりも楽だったという印象でした。筋肉痛も全くありません。無事に一日目が終了しました。まずは4分の1終了です。完歩できてよかった!

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